SUMMER OF CALPIS
   第一話「夏の始まりと出会い」

 僕はひろゆき。東京のボロアパートに一人で住む某大学の一年生。小さい頃から病弱だったせいでひょろっとしていて、そのせいで栄養が足りずに身長も百六十センチと低い。高校の時に気取って金髪にしてみたが、性に合わずにもとの黒に戻した。しかしその時に失敗してしまい、未だに黒髪の中に茶色い髪が何本か残っている。もう面倒くさくなってなおすきにもならない。大学もなんとか行けたぐらいでそんなに頭も良くない。だから、女の子にもてたことなど一度もなかった。
しかし、そんな僕のもとに一夏の忘れられない思い出が訪れるとは、全く思ってもみなかったのである。それも、偶然買ったカルピスのお陰でなんて。

 掲示板への書き込みを終えた僕は、近くの台の上にあるガラスのコップを手に取り、網戸にしてある窓から外を見た。窓から差し込む太陽の光は、夏だということを象徴するように異様な熱を帯びていて、僕の部屋の温度をぐんぐん上げている。お陰で僕は白く薄汚れたシャツ一枚と、緑色のトランクスという情けない格好を強制させられている。
 コップの中の飲み物を半分程飲んだ所で一端中断し、再び近くの台の上に置いて目の前のパソコンへと視点を移した。先ほどの掲示板とはインターネット上のBBSのことである。
僕は更新ボタンをクリックして、早速入って来た情報に目を通した。僕が今見ているのは、僕のお気に入りであり常連になっている世界一(自称)の巨大掲示板群、「2ちゃんねる」である。そして、今僕が見ているのはそこのPC関係の、FLASHという板である。
僕はここが一番お気に入りで、ほとんど毎日ここに来ている。しかも、そこでとある素晴らしいスレッドを見つけたことにより、より頻繁に訪れるようになった。その素晴らしいスレッドというものが、カルピスを飲んだ時に出る痰のようなものについてのスレッドなのである。最初は全くアホらしい思っていたが、実はこのスレッドが突然運命の軌道に乗って、まるで神が降臨したかのような素晴らしいスレッドに変わったのである。その中心となったのがカルピスの痰、通称「カルタン」の擬人化キャラの登場である。これが恐ろしく波紋呼び、次々と絵師と呼ばれる美術者達によって多くのキャラが生み出され、広がっていったのである。現に僕もそのカルタンに影響を受け、先ほどまで氷入りのカルピスウォーターを飲んでいたのである。
新しい書き込みには絵師達の作品はなく、エロい表現についての論議が相変わらず繰り広げられていたので、僕は少しうんざりしてパソコンから離れた。六畳程の狭い部屋をさらに狭くしている色々な家具の間を抜け、網戸を開けて直に外の景色を眺める。どこからか聞こえるセミの声と車のエンジン音。遠くに見える巨大な蜃気楼。心を打つような感動など一切覚えないが、長時間パソコンをしていた僕にその景色は懐かしく感じられた。
「残ったカルピスでも飲み干すかな……」
何気なく独り言を言って、その通り実行した。すると、カルピスを全て飲み終えた時点で、何か喉の奥に違和感を感じた。僕はそれが直感的にカルタンだと感じると、流し台へ数歩近付いて吐き出そうとした。だが、突然違和感が大きくなり、僕は少し戸惑った。こんな事は初めてだったからだ。
喉の奥のものの存在はどんどん大きくなっていくが、僕は吐き出すことが出来ずにいた。しかしその存在が危険だと脳がやっと感じ取り、僕は嘔吐するようにそれを吐き出した。だがそれは予想外の大きさで、お陰で僕は長時間大口を空けなければならなくなったが、その全貌が見えてきた時、僕は吐いたということなどすっかりと忘れてしまった。
それは少女だった。
蒼いショートヘヤに奇妙なアクセサリーをつけていて、白いワンピースには青色の水玉がプリントさせられていた。身長は百五十センチぐらいで、色白で細長い体つきをしていた。そして何より、とても幼くて可愛らしい顔立ちをしていたのである。
僕はしばらく事態が飲み込めず、ただ目の前の流し台にうずくまっている少女を眺め続けた。小さく盛り上がっている胸が若干動いているので、生きているらしいということは分かった。しかしその行為の危険性に気付いて、誰が見ている訳でもないのに、僕は一人恥ずかしくなって目を背けてしまった。
「う……ん……」
ふいに女の子の声が聞こえたので急いで辺りを見渡したが、目の前に当の本人がいることを思い出して視線を戻す。すると、ちょうど大きくて青々とした少女の目と視線が交わった。しばらく互いに見つめ合っていたが、突然少女がにんまりと笑ってみせた。その笑顔に僕の胸が一際高い鼓動を鳴らした。
「えっとぉ……、ここはあなたのお家ですよね? そして……」
少女は何かぶつぶつと言いながらしきりに僕の方を見た。そんな彼女を見ていて、ふいに僕は初めて彼女に会った気がしなかった。それも、最近よく見ている気がする。
「……そういえば、あなたのお名前は?」
突然少女が僕の顔を見上げて訊いてきたので、僕は顔を赤らめてしまった。少したれたワンピースの胸元に、小さな肌色の膨らみが見えたからだ。僕はあわてて少女に背中を向けてから自分の名前を名乗った。
「へぇ、ひろゆきさんですか。私は……」
僕が名乗ったお返しに自分の名前を言おうとする少女より先に、僕の視界に入ったパソコンの画面が答えを教えてくれた。
「カルタン!」
急に僕が叫んだので少女は驚いてしまい、流し台から転げ落ちてしまった。慌てて少女の肩を掴んで起こしてみると、少女は顔を赤らめて笑顔を作っていた。
「へへへ、驚いておっこっちゃいましたよ」
「ああ、ごめんよ」
僕はまた顔を赤らめて、肩を掴んでいた両手を急いで離した。やっぱり現実でもカルタンは可愛いんだ。と思い知らされる。しかし、そんな僕は急に冷静になってよく考えてみた。
「あれ?カルタンって想像上の存在だよな? っていうか俺のカルピスの痰? ってあれ? どうしてこんな大きな子が出てこれたんだ?」
ひとつ考えだすと、もはや止まらなかった。次々に思いつく疑問の波に僕の頭は潰されそうになる。ここはやはり本人に聞くしかないな。
「ねぇカルタン。君はどうしてここにいるんだい?」
僕の質問にカルタンは少し唖然とした表情をして、次にうーんと悩んだ仕草をした後、最初と同じ可愛らしい笑顔で答えた。
「分かんない」
今度は僕が唖然とする番となった……。

結局、僕はカルタンに関する全ての疑問を捨て、彼女をどうするかということを考えた。しかしこれも良い考えが浮かばず、結局一緒に住むことに。とはいえやはり女の子と二十四時間一緒にいるのは、免疫のない僕にとって苦痛だ。カルタンはといえば、必要以上に僕によりかかってくる。とりあえず、今僕は最高の幸せを手に入れている……はずだ。

深夜、ひろゆきとカルタンがいるアパートの一室を見上げる影がひとつ、街灯の下に立っていた。その影はしばらく無表情だったが、突然口元を緩めて足を進めた。そして、街灯の光が届かなくなるところまで足を進めたところで、その影は闇に消えた。
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